フランスの一大産地であるブルゴーニュの中でも圧倒的な存在感を放つ村の一つがジュヴレ・シャンベルタンです。
グラン・クリュが最も多く位置する村であり、その数は9つになります。またそれだけでなくクロ・サン・ジャックやレ・カズティエをはじめとした偉大なプルミエ・クリュが数多くあります。
またセンスある生産者が集まっていることもあり、素晴らしいワインが数多く市場に流通しているのも魅力の一つでしょう。
ここではジュヴレ・シャンベルタンのワインが一般的にどのような性格を持つのかについて解説していきます。また畑ごとの違いについてもテロワールの観点から解き明かしていきます。
そして各畑の主な区画所有者も記載しています。基本的には評価の高いドメーヌ、ネゴシアンの順となっています。より詳しく知りたい方は生産者の名前をクリック(タップ)することによってご覧になっていただけます。
ジュヴレ・シャンベルタンの特徴
ジュヴレ・シャンベルタンはグラン・クリュを擁する村としては最北に位置し、冷涼な気候でありながら、石灰岩を中心に粘土や酸化鉄を含む水はけの良い土壌であり、コート・ドールの中でもかなり隆起した地形を持ち日射量が多いことから、成熟度の高いブドウを収穫することが可能となっています。
ジュヴレ・シャンベルタンでは他の村と比べてブドウが熟すのが少し早いため、遅摘みをすることによって更なる凝縮感を得ようとする生産者も数多くいますが、アルマン・ルソーのようにとても早い段階で収穫を行う生産者もいます。
出来上がるワインの色合いは濃く、香りにはよく熟した果実、土やスパイスのニュアンスが強く感じられ、複雑かつ力強い。口に含むとブルゴーニュのワインとしてはボリューム感があり、骨格の強さがあります。凝縮した果実味と上質な酸味、モレ・サン・ドニやシャンボール・ミュジニーほどではありませんがフィネスがあり、豊富かつ洗練されたタンニンがあります。
香り・味わい共に力強くもエレガントなワインは、よく男性的と表現されます。
ジュヴレ・シャンベルタンの地質
畑はラヴォー渓谷から平地に向かって広がる扇状地に連なっており、北側のサン・ジャックの丘陵と南側のグラン・クリュ丘陵、そして中央の泥土や黄土等で構成された扇状地のエリアに大きく分けられます。また村の最南部にもグリザール渓谷から広がる扇状地があり、ここにも畑は位置しています。
サン・ジャック丘陵の地質
サン・ジャックの丘陵では標高350mまでブドウが栽培されており、ここでは軽く痩せたレンジナ土が粘土質土壌と組み合わさっているため、複雑で優雅なワインを生み出すのに有利。
レンジナは石灰岩の風化物を母材とし、腐食に富み(動植物が不完全に分解された有機物)肥沃な性質を持つ。
グラン・クリュ丘陵の地質
グラン・クリュ丘陵では標高300mまでにしか畑は位置しない。斜面上部はバース階の基盤で、それは下部になるにつれてバジョース階の泥灰土、バジョース階下部のウミユリ石灰岩へとなっていきます。
丘陵下部から扇状地の地質
ラヴォー渓谷とグリザール渓谷から広がる扇状地は、古代3紀の漸新世末期の泥灰土や礫岩等が基盤となっており、歴史が浅く構成もシンプル。そのため斜面に位置するグラン・クリュやプルミエ・クリュのワインと比べ、扇状地の村名畑のワインは複雑性に乏しいと言われています。
グラン・クリュ
Chambertin シャンベルタン
ジュヴレ・シャンベルタン9つのグラン・クリュの中でも別格と称されるのがシャンベルタンとシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ。どちらの畑にも数々の逸話がありますが中でも、ナポレオン皇帝が遠征の時も、シャンベルタンのワインを必ず持っていき愛飲していた話は有名でしょう。
畑は標高270m~300mに位置し、理想的な東向きの斜面。斜面中腹部はバジョース階下部のウミユリ石灰岩が露出しており、上部ではバジョース階の白く痩せた泥灰土が見られます。また全体的にほとんど厚みのない崩積物や黄土で覆われ、土壌は褐色石灰岩質。
斜面中腹部はピノ・ノワールが理想的な成熟を遂げるのに最適と言われ、最も複雑なワインを生み出します。上部からは優雅さを感じさせるワインが造られており、そして下部から造られるワインには力強さがあります。
共通して言えることは、どのワインも堅牢だが芳醇。またコンブ・グリザール(グリザールの谷間)から吹き下ろす冷たい風があるため、シャンベルタン・クロ・ド・ベーズより引き締まったタイトな印象があるということでしょう。
主要所有者
Chambertin-Clos-de-Béze シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ
シャンベルタンと共に別格として扱われるのがクロ・ド・ベーズ。
この畑の土地は630年にアマルゲール公爵がベネディクト会のベーズ修道院に寄進したもので、その際にブドウが植えられました。
クロとは石灰岩を積み上げてできた囲いのことで、斜面の表土が流れるのを受け止めるように凵型になっており、14世紀に完成されてから守り続けられています。
畑はシャンベルタンの北に位置し標高も高く、上部は傾斜の厳しいもの。土壌の性質はかなり似ていますが、男性的なシャンベルタンほど引き締まった様子はなく、繊細かつ優美なことから女性的と言われています。
またシャンベルタン・クロ・ド・ベーズのワインはシャンベルタンを名乗ることができますが、反対にシャンベルタンのワインがシャンベルタン・クロ・ド・ベーズを名乗ることは出来ません。
主要所有者
Mazis-Chambertin マジ・シャンベルタン
畑の名は「小さな家」を意味する方言からきており、コート・ド・ニュイ地区では初めてオスピス・ド・ボーヌに寄贈された畑。
シャンベルタン・クロ・ド・ベーズの北に位置。リュショット・シャンベルタンと共にグラン・クリュとしては最北。
プレモー石灰岩を母岩に粘土が混ざった土壌で、斜面上部には褐色土が堆積しています。斜面下部にはウミユリ石灰岩も見られますが、一般的には斜面上部の区画に劣ると言われています。
またリュショットほどではありませんが、渓谷からの北風の影響も受けます。
出来上がるワインはクロ・ド・ベーズより骨格が強く野性的な風味を持つことが特徴。
主要所有者
Charmes-Chambertin シャルム・シャンベルタン
シャンベルタンのすぐ下から丘陵の下部へ延びる畑で、シャルムの南に位置するマゾワイエールもシャルムの名を名乗ることが出来ます。
ほとんどの区画が赤色のレンジナ土で覆われ、石灰岩が露出している。そこに泥灰土や鉄、小石などが見られる。基盤層は亀裂の入った岩盤で、ブドウ樹が根を深く張ることを可能にしています。
ここで造られるワインは特に濃い色をしており、肉厚かつまろやかでありながら濃密で力強いタンニンを持ちます。
シャンベルタンに隣接する上部の区画が最も上品で、下部の区画は果実味の肉付きが良い。
主要所有者
Mazoyéres-Chambertin マゾワイエール・シャンベルタン
シャルム・シャンベルタンの南に位置し、上部の区画はラトリシエールに接する。
一般的にはシャルムとあまり変わらない特徴を持つと言われているが、こちらの方がより冷涼な気候を持つ。
斜面の下部になるほど土壌は厚くなっており、シャンベルタンよりキメの細かい粘土石灰質。出来上がるワインは肉厚で複雑、長期熟成に耐え得るポテンシャルを持ち、上部の区画になるほど繊細さを持つ。
主要所有者
Latriciéres-Chambertin ラトリシエール・シャンベルタン
マゾワイエールの上部、シャンベルタンの南に畑は位置しており、クロ・ド・ラ・ロッシュと地続き。
白色魚卵状石灰岩を持ち、斜面下部の区画は基盤層が露出しているという点でシャペルと似通っている。
また コンブ・グリザール(グリザールの谷間)から吹き下ろす冷たい風 があるにも関わらず、他のグラン・クリュと比べてもわずかに暖かい気候も持つ。
9つのグラン・クリュの中で最もミネラルが豊富で、力強い味わいだが引き締まっている。しかしながら複雑性や余韻の長さなどにおいては劣っている。
主要所有者
Griotte-Chambertin グリオット・シャンベルタン
グリオットはシャペルの南、クロ・ド・ベーズの下部に位置し、その南には村名区画のエトロワを挟んでシャルムが位置している。
シャルム側の区画は赤色や黒色、下部の区画は赤褐色の土壌となっており、シャペル側になると白っぽくなる。表土は薄く痩せており、バジョース階の多くの礫や化石を含む岩盤がところどころ露出している。
畑はとても水はけが良く、日射量を多く受け止める地形になっていることから、9つのグラン・クリュの中でもブドウの成熟が早く進む。
この畑で生まれるワインの特徴は、名前に含まれるグリオット(野生のサクランボを意味する)を中心とした赤系果実の強烈な香りがあることでしょう。また酸味はやや穏やかで、柔らかいタンニンを持つことが多い。これらのことから比較的若いうちから楽しむことができるが、他のグラン・クリュ同様に長期熟成も可能。
主要所有者
Ruchottes-Chambertin リュショット・シャンベルタン
マジの上部、9つのグラン・クリュが連なる丘陵の最上部に位置するのがリュショット。グラン・クリュとしてはマジと共に最北。
上部には白色魚卵状石灰岩が見られ、下部は石ころだらけで岩盤が露出している。
全体的に表土が薄く、ラヴォー渓谷からの風の影響もあり、収量は自然と制限される。また他のグラン・クリュと比べてブドウの成熟が遅く、酸度も高くなる。
出来上がるワインはマジのような力強さや活力はないものの、優雅さとフィネスに富む。
主要所有者
Chapelle-Chambertin シャペル・シャンベルタン
畑の名は1155年にベーズ修道院の傍らに建設された礼拝堂(チャペル)からきているが、1789年から始まったフランス革命時に破壊された。
クロ・ド・ベーズの下部に位置し、南にはグリオットが位置している。
標高260~270mの緩やかな斜面に畑はあり、土壌の大部分は泥灰質の白色石灰岩で、グリオット同様に露出している箇所が見られる。
水はけがよく、グリオットより肥沃な土壌からは、マジやシャンベルタンのような骨格はないものの、果実味豊かでフィネスも兼ね備えたエレガントなワインが造られています。
主要所有者
プルミエ・クリュ
プルミエ・クリュの畑はサン・ジャック丘陵の斜面とラヴォー渓谷から広がる扇状地、そしてグラン・クリュ丘陵の下部に位置しています。
サン・ジャック丘陵の入り口、真南を向いた斜面にはボシエール(ドメーヌ・アルマン・ジョフロワのモノポール)、ロマネやヴァロワイユ(どちらもドメーヌ・デ・ヴァロワイユのモノポール)、ポワスノ、エストゥルネル・サン・ジャック、ラヴォー・サン・ジャックなどが位置しており、これらの畑はラヴォー渓谷から吹き込む冷たい風の影響を強く受けています。
そしてクロ・サン・ジャックのあたりから斜面は東向きになっており、カズティエやコンブ・オー・モワンヌ、グーロ、シャンポーなどから造られるワインは力強く、より長期の熟成に耐え得るポテンシャルを持ちます。
クロ・サン・ジャックとカズティエが最も評価が高く、ラヴォー・サン・ジャックやコンブ・オー・モワンヌからも素晴らしいワインが数多く造られています。
クロ・デュ・シャピトル(ニュイトン・ボノワのモノポール)やシャンポネ、イサール(フェヴレのモノポール)、フォントニー、コルボーなどのラヴォー渓谷から広がる扇状地の畑からは、骨格の強さよりも繊細さが際立ったワインが造られています。また粘土の多い土壌というのもあり、ワインにもやや粘性が感じられる場合があります。
フォントニーとコルボーには著名な生産者たちが区画を所有しています。
グラン・クリュ丘陵の下部にはオー・クロゾーやラ・ペリエール、クロ・プリュール、シェルボード、プティ・シャペル、アン・エルゴなどが位置しています。
例外として丘陵上部のベレール、ラトリシエールとクロ・ド・ラ・ロッシュに挟まれたコンボットなどがあります。
クロ・プリュールやシェルボード、プティ・シャペル、コンボットからは造られるワインは高く評価されるものが多く、生産者は少ないですがベレールからも良質なワインが造られています。
村名畑
村名畑から造られるワインは北側の区画から造られたものほど、柔らかく若いうちから楽しむことができる傾向があります。
またコート・ドールでは、県道974号線の東側は水はけの悪い沖積土がほとんどを占めるため、ブルゴーニュ・ルージュクラスのワインしか基本的に造ることが出来ないのですが、ジュヴレ・シャンベルタンではグラン・クリュ丘陵とサン・ジャック丘陵の斜面から流れ出た粘土石灰質土壌が、県道をまたいで広がったという理由から、村名ワインを造ることが許された畑が数多く見られます。ショレイ・レ・ボーヌでも同様の理由から、県道の東側に村名畑が広がっています。
村の中央付近、県道974号線上部の区画のワインは香り高さや骨格の強さ、複雑味があり村名区画の中でも特に優れています。
中でもピエール・ダモワのモノポールであるクロ・タミゾから造られるワインは、一級畑のワインに比肩するポテンシャルがあります。
またサン・ジャックとブロションの丘陵下部に広がる区画は村の北側ではありますが、風化した岩石を表土に持つ土壌から、村名区画の中でも力強く肉厚で長期熟成が可能なワインが造られています。
グラン・クリュ丘陵下部の真東を向いた斜面の区画では、水はけが良い褐色石灰岩質土壌から、豊かでありながら全体のバランスがとれたワインが生み出されています。
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